インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「 リビダルヨコシマ 第1話 「それは始まりなの? 懐かしき、新たなる相棒?」(元ネタGS×リリカルなのは)」

D・D (2007-07-25 11:02)
>NEXT


 世界にはたくさんの人がいて、たくさんの想いを抱えて生きている。
 その想いは時にぶつかりあうこともあるけど、きっと解りあえるときもある。
 例え世界が違ったとしても、それが人間同士じゃなかったとしても、だ。

これから始まる物語は、そんな出会いと絆の物語。 
 出会いが導く偶然が――今、動き出す。

 リビダルヨコシマ、始めるぞ。


 リビダルヨコシマ 第1話 「それは始まりなの? 懐かしき、新たなる相棒?」


「どないして、こんなことになったんやろーか……」

 真っ暗な空間であった。光源一つも見えないぽっかりとした空間で、男が一人つぶやいていた。上下左右、横ななめ縦ともに足場も手をかける場所もなく、先ほどから頭から落ちていく感覚だけがある。普通、こんな状況になったら焦るのだろうが、数分間もこんな状況が続けば、さすがに慣れてくる――というか、達観して涙がるるる〜と流れてくるだけである。

「文殊も栄光の手も出てこんし、もしかしてずっとこのままかいな」

 もーなんというか泣けてくる状況で、わっはっはと笑う男。というか笑ってないとやっていられないとばかりに大声で笑うが状況に変化なし。
 こんな状況になってしまった原因である、例の依頼の事を思い返し、今度は後悔と怒号の声が腹から出てきた。

「やっぱり悪魔のいうことなんざ聞くんじゃなかった、どちくしょーー!!」

 GS(ゴーストスイーパー)見習兼、美神令子除霊事務所の丁稚こと横島忠夫の声が空しく響いた。


 近代社会になり、かつては裏の仕事であったオカルト関係の仕事が公の舞台に移るようになってきた。それはかつては民間の中で自然と教えられてきた教えなどが薄まり、一般社会にも霊などが噴出し始めたせいである。そんなオカルト関係の問題ごとを民間で受け持ち、社会の安全と経済活動を脅かす悪霊や悪魔を退治する現代のエクソシスト、それがゴーストスイーパーであった。

 核ハイジャック事件や神魔消滅などをたくらんだアシュタロスとの戦いからしばらく経った頃、雑魚の妖怪や悪霊たちもボチボチ動き始めて、ゴーストスイーパーの仕事も入り始めていた。
 そんな美神除霊事務所のいつもの面々、所長美神令子、アシスタントの横島忠夫、氷室キヌが受けた依頼は、ヴァチカン公国からのものであった。オカルトに関しては、西ヨーロッパ圏内では他の追随を許さないヴァチカンからの依頼とあって、もちろんギャラは破格も破格。依頼の話を聞いていたのは美神だったので、詳しい額は解らなかったが、美神の目が$になっていたのですぐに大金と解った。依頼の内容すら従業員に告げずに、速攻でイタリアまで飛んだ美神一行である。


「――んで、今回の依頼はどんな内容なんすか?」

 ヴァチカン宮廷内にて、案内役の司教らしき男の後を歩きながら、横島が美神に訊ねた。

「ラプラスの悪魔って知ってる? 言っとくけど天文学者の方じゃないわよ」

「え〜と……すんません、勉強不足で」

「じゃ、簡単に説明するわね。かつてパンドラがゼウスが封じた災厄の箱をあけてしまったわ。嫉妬、憎悪、怨恨、……ありとあらゆる罪悪や災禍が吹き出してしまったの。いわやるパンドラの箱ってやつね」

「あ〜、それなら有名ですから知ってますよ。確か、希望だけが最後に残されたでしたよね」

「――って言われているけど、実はもう一つ残ったものがあるの。『前知夢』とか『予知』っていわれるものよ」

「それも完全なる予知です。外れることは無いといわれるほどの」

 後を引き継ぐように、前を歩いていた司教が語った。横島としてはそんな便利なものがあったら テストなどは受けなくて済み、便利などと気楽に言ったが、そんなことをしたら明日への希望もへったくれも無くなってしまうでしょ、と美神にたしなめられた。なるほど、だから希望と一緒に封じられたのかな〜と考えてながら、ラプラスが封じられている部屋に通じる通路へと向かった。

「私が案内できるのはここまでです。では……お気をつけて」

 司教は通路まで案内すると、通信機だけ渡して退がってしまった。先ほどまでの豪華な宮廷内と異なり、寒々しく不気味な空気が流れている。途中、通路の傍にいる物騒な悪魔にガンつけされてビクついたりもしたが、なんとか一番奥の部屋の前までたどり着いた。そこにいたのは、果たして人間型の悪魔、前知夢のラプラスである。

「やあ、こんにちは。長いこと待っていたよ」

「待っていた……?」

 出会って一番最初に出た言葉がそれであった。何のことかさっぱりわからなかったが、さっさと仕事を終わらせようと美神は分厚い日記帳を取り出した。

「悪いけど、あんたとお喋りするためにきたんじゃないのよ。さっさと用事を済まさせてもらうわよ」

「つれないね、こんな辛気臭いところに居ると話し相手もいないんだよ。閉じ込められてしまった哀れな悪魔と、少しは話をしていってもいいんじゃないかい?」

「おあいにく様。悪魔と楽しく話すくらいなら、ドブネズミとパーティーをしたほうがましよ」

 もっともお金を払うなら話は別になるわよ、とウインクする美神であった。この人らしいなーと思わず冷や汗をかいた。会話を打ち切り本を監獄の中に入れ、ラプラスを促す美神。

「あんたはそこにいる以上、百年先の出来事しか分からないみたいね。しかも触ったもの限定で」

「そう、その通りさ。百年前の今日も、君と同じように役目を帯びた男がやってきたね。全く人間というのは未来を知りたがる。変えられようがないというのに」

 そう、今回の依頼は司祭が使う日記帳に、今後100年間の予言をさせるというものであった。そのために日記帳を渡し、それに触れさせる必要があったのだ。


「しっかし、本当に予言なんて出来るのか? インチキとかじゃねーの」

 ふとした疑問をラプラスに対して呈する横島。

「おや、お疑いかな。私の予言は今日までは当たるからね。なんだったら、君の知りたいことでも当ててみようかい?」

 ふむ、と考え込む。美神ももし当たったら今日のレース結果でも聞こうかしらと考えていたようで、黙って見ていた。数秒後、横島が真面目な顔で問う。

「美神さんの今日のパンツの色は?」

 だあぁーーとこける後ろの二人。

「白だ」
「うむ、そのとお「なんでキサマがしっとるかっ!」あぶべしっっ!?」

 うなずいた横島が真横に飛び、壁にめり込む。当のラプラスはこの展開も予想していたのか、クックックと面白そうに笑っていた。

「いやいや、起こることを識っているということと、実際に目の前で見るのは違うものだね。感動をくれて感謝するよ」

「そう、それじゃ感謝ついでにとっとと予言をして、本に書いてもらおうかしら。私は早く終わらせたいのよ」

「ああ、別に構わない――と言いたいところだが、一つお願いがある」

「あら、知らないの。GSは悪魔と取引はしないのよ」

「取引じゃないさ。ちょっとしたお願いだよ。そこの――」

 ついっと、めり込みから復活したばかりの横島に対して指を走らせるラプラス。

「GS見習い君と話をさせてもらいたいんだ、30分ばかしね。それだけだよ。私は彼に対して何もしないと約束しよう」

 3番テーブルにラプラスさんよりごしめーい。そんな指名されて思わず声を荒げるが、

「ふ、ふざけんじゃねーよ! なんで悪魔なん「OK♪」って美神さはーーん!?」

 一瞬にして雇い主より却下されてしまった。

「じゃあ、後はよろしくね、横島くん♪ 悪魔は約束を守るから大丈夫よ、多分」

「って、多分なんすか、美神さーーん!! こんなやつと二人っきりなんてぇええーーー!!」

 叫び声むなしく、美神はもと来た道をすたすたと帰り、おキヌちゃんも申し訳なさそうにぺこぺこ謝りながら付いていってしまった。


「……やっと二人っきりになれたね」

 背筋に強烈な悪寒! 横島に妖しさ爆発の視線が向けられている。

「ななな、なんだよ、ヤんのかコラぁァ!? GSはただじゃヤられねーぞ!?」

「……君が何を考えているか、だいたい想像はつくが、それとは別件さ」

「別件!? 本音はやっぱりそっちか、ゴラアァ!」

「く、くっくっく。やっぱり予言どおりの人間だね、君は。なあ、“恋人殺し”君」

「っ!?」

 一瞬にして空気が張り詰める。手を強く握り締め、鋭い目線を目の前の悪魔へと向ける。

「手前ぇ……!」

「100年前から知っていたさ。今日、君がここに来るということもね。もちろん君の事はなんでも識っている」

 ギシリ。奥歯が痛いくらい鳴った。瞼が痛くなるくらいに睨めつけるが、ラプラスは飄々とした様子で話を続ける。

「本名、横島忠夫、17歳、男。GS見習いとして美神除霊事務所にアルバイトとして勤務。時給は255――いや、今はちょっと上がったのかな。まともに霊能の修行も受けていないというのに、GS資格試験に一発で合格という異例の快挙を成し遂げた。また、霊能も全く覚えていない時代から、多くの場面においてキーパーソンとして動く。
 その後、煩悩をエネルギー源として、数々の霊能力に目覚める。霊的防御力を一点に収束するサイキックソーサー、自身の霊力を具現化し武器とする栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)、そして霊力を凝縮し一定のキーワードで解凍する文珠。それらを駆使し、やがて除霊の第一線においても目覚しい活躍を果たす。特に、メドーサとの戦いにおいては君なしでは美神令子は死んでいただろうな。
 そして数週間前の魔神アシュタロスとの戦いの最終局面、世界と恋人、どちらかを選択しなくてはいけなくなり、君は――」

「それ以上、しゃべんじゃねーよ!」

 文珠を取り出し、【爆】の字を込めてラプラスを脅す。いかに悪魔ラプラスといえど、牢獄内に文珠を直接投げ込まれたらダメージは避けられないだろう。だがそんな横島の動作にも、どこ吹く風といった様子で肩をすくめるだけであった。

「ふむ、残念だね。予言とは違った反応をしてくれると期待していたのだが」

「――ちっ!」

 駄目だ、この悪魔はこちらの行動を全て読みきっている。悔しい限りだが、自分の行動全てが、こいつにとっては予定調和の内なのだ。

「君を怒らせるつもりはなかったのだがね。ああすまない、謝罪するよ」

「どの口でほざきやがる。そんな下らねえ話をするために呼んだってなら帰るぞ、俺は」

「そうだね、もう10分経ってしまったようだし、単刀直入に言おう」

 また空気が緊張感を帯びる。ごくりと、思わずつばを飲み込んでしまう。例え何を言ってきたとしても動揺しないよう、横島は覚悟を決めた。

「――君が救い、そして救われる道を示そう」

「…………は?」

「ここから更に奥に隠し部屋がある。そこに行けば、君に救いの道が示されるだろう」

「ちょっと待てよ、本に予言を記す条件は、俺と話をするだけじゃなかったのか」

「ああそうさ、別に君を強引にどうこうするなんて出来ないし、しないさ」

「じゃあ俺が別に行こうが行くまいが、関係ないってことか」

「そう、君の自由だ。ただしそこに行けば、君はある人の罪を赦し、君の罪はある者に赦され、君はある相手を救い、君はある存在に救われるだろう。」

 ひとしきり喋ったのか、場に沈黙が立ち込める。ピチョン、と水滴の音だけが通路内に響いた。


「話は以上だ。さて、約束の本だったね、持っていきたまえ」  

 渡し口から本が戻される。ぱらぱらと本をめくってみたが、何時の間に書いたのか、全てページが埋まっていた。用件は済んだ。これ以上、ここに留まる必要は全く無い。

「けっっ! だーれがお前みたいな悪魔のいうことなんざ、聞くかっつーの」

憮然とした表情で横島が吐き捨て、もと来た道を帰ろうとする。横島といえど、意味不明な会話に乗るほど愚かではない。


「ああ、そうだ。言い忘れていたが、先ほどの話の相手は――美女だ」


ピクッと横島の耳が兎のごとく動き、まなざしが肉食獣のごとくぎらつく。ラプラスの方を振り返ると、狙い通りといわんばかりにニヤケている。

――駄目だ! 落ち着け、落ちつくんだ、横島忠夫! こんなパターンなんか今まで何度もあったじゃないか。ヤバイ橋を渡ってもまずい結果しか帰ってこないっつーのはお約束! SSになると、何故かキーやんとサッちゃんはボケとツッコミのキャラになり、タマモと小竜姫様に人気があり美神さんがあんまり出てこなくなるのもお約束! もはやGS美神のデフォルトじゃないか!

 やけにメタで危険な思考をしていた横島だが、

「しかも複数の美女がいるぞ。だいたい10人くらいだな」
「あっちだな! 大勢の美女が俺をまっとる部屋は!」

 一瞬にして宗旨替えをした。バビュッと180度方向転換して、隠し部屋があるという場所に向かって付き走る。GS見習い横島忠夫、意味不明な会話に乗るほど愚かではないが、そこに「美女」の二文字が入るとそれは全て、意味のあるものへと昇華するのであった。
 余りに急いで向かったために、

「良い旅を。忠告だが、あんまり女性に対して――」

 というラプラスの言葉は半分程度しか聞こえなかった。


 さて。


「隠し部屋っていってたけどよ……」

 ラプラスの言っていた部屋はすぐに見つかった。見つかったのだが……

「どこが“隠し”じゃ、ボケーッ!」

 目の前の部屋の入り口は、『危険、立ち寄るべからず!』や『この部屋に入るもの、一切の望みをすてよ』というどっかの修行場で見た事のある警告札が通路一面に貼られており、良く分からない魔法陣が床一面にびっしり描かれており、なにやら重火器がウィーンという駆動音を立てている。しかも部屋のドアは、合金製でどっかのバイオ研究所とかにあるような、二重三重の大型電動扉であった。霊動的な処置ももちろん施されているだろう。
 どっからどうみても、要塞にしか見えない部屋であり、ちょーっと入るのは無謀かなと考えさせられる横島であった。

「あ、あかん。美女には会いたいが、これを突破するのは少し無理がある。美神さんにこの事がばれたら、またシバかれそーだしな」

 30分でラプラスと話を終えるといった以上、あんまり遅いと美神も様子を見に戻ってくるだろう。それでヴァチカンの隠し部屋なんかに忍び込もうとしたことがばれたら、当然、違約金が発生→デッドエンド、もしくは一生奴隷。

「それはマズイ! やっぱし悪魔のいうことなんか無視して帰ろっかな〜」

 そう帰ろうと瞬間。


『……ミツケタ』


「え?」

 何か声がしたと思い振り向いたら、ドアロックが全て解除され、重火器も動きを止め、魔法陣も輝きを失っていた。要するに全てのトラップが、いきなり解除されたようである。扉の向こう側から冷気がもれてくる。扉の奥底は暗くて見えないが、何かがいることは霊感で感じ取れた。
 ゴクリとつばを飲み込み、行くか行くまいか一瞬、躊躇する。しかし。

「なぜその道を往くのか! それはそこに美女がいるからじゃあぁ!」

 そこは横島。千載一遇のチャンスとばかりに部屋の中に特攻した。


 部屋の中は体育館くらいの広さがあり、天井も広々としていた。石畳の床に触れたせいか、ひんやりとした空気が立ち込めている。天井や床に描かれている大型の魔法陣がぼんやりとした光を放っている。その部屋の中央には豪勢な台座がぽつんと置かれており、その上になにやら布らしきものが丁寧に敷かれている。
 中央に向かって歩き出す横島。

「なんだよ、美女なんかどこにもいねーじゃねえか。く〜〜〜っ、やっぱり嘘つきやがったんか、あのヤロウ!」

 周りを見渡すがどこにもそれらしき影は無い。あるのは目の前にある、赤い布切れだけだった。その布は端っこがところどころ破けており、大きさも1平方メートルあるかないかくらいのものであった。どうやら年代物らしいが、何故これだけがこんな大きな部屋に保管されているのか良く分からない。金にはなるのだろうが、さすがに盗んだりしたら速攻でばれる。しかし若干の興味を覚えた横島は、その布を良く見てみようと、手を伸ばす。

「なんなんだ、この布……?」

 その布に手を触れた瞬間、


『……ヨウヤク、アエタ』


「なっ!? えっ、えっ!?」

 布から黒いモヤのようなものが漏れ出し、それが横島の周りに立ちこめ、一瞬にして逃げ道をふさぐ。布から手を外して逃げようとしたが、モヤはすでに部屋中に溢れ出ている。

『ドウカ…………ヲ…………クレ』

 布本体からこぼれてくる声が途切れ途切れ聞こえたかと思うと、モヤが横島の全身に取り付いた。

「み、美神さ……」

 モヤはそのまま圧縮しだし、横島のサイズよりも更に小さくなっていく。文珠を取り出すべく、司教の日記帳を床に置いた。しかしその暇も与えないとばかりに圧縮したモヤによって横島忠夫はこの世界から消えたのだった。


 回想終了。現在の状況再認識。結論……


「わけわかんねぇーーーー!!」

 叫んでも状況が変わるわけないが、叫んで無いとやってられない。

「ずっとこのままなんか……? いやじゃーーー! 死ぬ前に一度スキマなく美女で埋め尽くされたプールにタキシード着てとびこんでもみくちゃにされてみたかったーーっ!!」

 半泣きを通り越して、全泣きになっても何も状況は変わらない……と思えたのだが。

 キュイイイィーーーーーン!

「へ?」

 横島の胸元が輝きだし、そこから翠色の宝石のような光が出てきた。体から光――しかも自分の一部が抜け出るという妙な感触と、その光自身の熱さが絡まり、身動きをとろうにも何も取れない。そうこうしている間に光は横島から完全に体外へ出て、眼前へと出てきた。

「一体、なんだ……?」

 その翠色の光はそのまま飛び立ち、闇を突きぬけ、遠くの空間に孔を穿った。光がそこから漏れ出してくる。

「おおっ! 脱出できるみたいだ!」

 先行した光についていこうと、宇宙空間で遊泳するように横島は光に向かって泳いでいった。


   ※ ※ ※


 ちょうど同時刻、深夜の海鳴市の住宅街の一画で奇妙な光が目撃された。その翠色の光は空中から舞い降り、一人で暮らしている少女の家へと入り込んでいった。窓が開いていないというのに、光は少女が寝ている一室へと向かっていく。

 その部屋の中には、ショートカットの少女がベッドに体を預けており、その横には車椅子が置かれていた。そして多くの本が収められている本棚の一角に鎖に巻かれている異質な本がある。その本は金で出来た十字架を表紙とし、厚さは辞典ほどもあろうか。封印されているといった風情の本に向かって翠色の光が奔った。

 少女は熟睡しているため気づかなかったが、そこでは奇妙で幻想的な光景が展開された。翠色の光が本へと取り込まれた瞬間、本が膨れだし、鎖を今にも引きちぎらんばかりにうごめいた。本の表面にいくつもの血管のような節が走ったが、鎖はまだ千切れるべきでないと、強引に本を押さえこむ。光の束は本から更に漏れ出し、部屋中を緑色で染めた。

 胎動が済んだと思われた瞬間、本から一つの光が漏れ出す。その光は入ってきたものと異なり、黒紫色の輝きを持っていた。その光は目標を見つけたのか、一直線に奔り出し、少女の家を抜け、海鳴市上空に向かっていった。


   ※ ※ ※


「おっしゃあ! 抜け出た……ぞ?」

 ようやく暗闇から抜け出た横島を待っていたのは、

「…………やっぱりこんなオチかよぉぉおお!」

 装備なしのスカイダイビングだった。下がどうなっているのか確かめようとしたが、今は夜のようで全く見えない。小さな明かりがちらほら見えたので、なんとなく高さは分かった。高度は、数千メートルはあるだろう。そのまま落ちたら横島といえど、間違いなくデッドエンドである。

「も、文珠! 出ろ! 出てくれえええぇええ!!」

必死になって文珠を取り出そうとするが、十数秒後にはペシャンコのトマトになるという極限状況の中で集中できるわけもない。霊波を収束しようとしても、何秒後に激突するか分からないという恐怖では出来はしない。ますます追い込まれる横島。涙とよだれと鼻水が、空気に押されて真上へと飛んでいく。

「死ぬのはイヤああああぁ――って、え?」

 下を見ると、紫色の光がぐんぐんと横島に接近してくる。その光は凄まじいスピードで、横島の額へとヒットした。

「な、なんじゃ今のは……って落ちとる最中やったぁーーー!」

 光に激突したおかげで一瞬、落下速度にブレーキがかかったが、自由落下を再び開始し、横島は海の中へと放り出された。暗くてよく見えなかったが、幸いにも真下は海だったようである。ブレーキがかかったおかげで大分落下スピードが落ちたことも幸いした。


 テトラポットに手をかけ、横島が海から這い出る。その姿は、人に見つかったら警察通報違い無しの光景である。街灯やベンチが見えるので、どうやら海近くの公園に落ちてきたようだった。辺りには人の影は見えなかった。

「あ゛あ゛〜〜〜、死ぬかと思った……」


《ああ、全くだ》


「へっ?」

 陸に上がり上着を絞っていた横島に、なにやら女性の声がかかった。あらためて周囲を見渡したが、どこにも人影は無い。

《いきなり空中に呼び出され、落下するとは思ってもいなかった》

「だ、誰だよ!? どこにいんだ!?」

《ここだ》

 声の主はどうやら自分の額から聞こえてくるようだった。慌てて、バンダナを外して額部分を見る。

《それで、お前は一体何者だ。どうやら新しい主ではないようだが》

「おま、お前――心眼かよ!?」

《心眼? 私は闇の書の管制人格だ。もっとも、今は何故かこんな状態だがな》

 フゥッと溜息が聞こえるような声で、そいつは語った。果たして、そこにいたのはGS試験の時に犠牲となったはずの心眼と同一のものである。赤のバンダナに一つ眼がくっついている。違ったのは、『やみのしょのかんせいじんかく』とやらは、紅い眼をしており、女性の声をしていたという点だった。
 状況はさっぱり分からないが、どうにもこうにも厄介なことに巻き込まれたことだけは知った。


「やっぱり悪魔のいうことなんか、聞くんじゃなかったぁあーーー!!」
《一体、何なんだ、こいつは……》


 横島の絶叫と、管制人格の呆れたような溜息だけが、夜の海鳴海臨公園に響いた。


第一話 終。

>NEXT

△記事頭

▲記事頭