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「体験ハンター 第三話(ハンター×ハンター+オリジナル)」

サキスケ (2008-01-25 20:42)
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第三話


 エイジアン大陸西端の港町ヴェルザス。情報ハンター、ギルフォードの住む街である。
 ヴェルザス到着の翌日。約束通り、僕たちはギルフォードと面会できることになった。場所はギルフォードの屋敷である。
「立派な待合室だね。やはり金持ちは違う。紅茶の味まで素晴らしい」
 ロベルトは足を組み、優雅にティーカップを傾ける。
「紅茶の味がわかるとは、初耳だな」
 僕もロベルトに倣って紅茶に口をつけるが、味なんてわからない。午後の紅茶でも、紅茶花伝でも大差ない。というか、あれの方が好きだ。
「アリス。最近の君はどうも冷たいね。元の性格とも違ってきている」
「それは僕も感じている。今なら簡単に人が殺せそうだ。おそらく肉体に引っ張られているのだろう。お前にもその兆候は見られる」
 自分が自分でなくなるような不快感がなくもないが、この世界で生きるには受け入れるべき変化だ。
「ふむ。受け入れる覚悟を決めるべきか。覚悟を決めた人間は幸福だ。それが私を天国の時へと押し上げる。ふふふ、私は運命を乗り越えて見せるぞ」
 どっぷりと役柄に浸るロベルト。
 訂正する。こいつは肉体に引っ張られていないのかもしれない。
「その含み笑いは、しない方がいいぞ」
「友からの忠告だ。心して受け止めよう」
 プッチ神父に似た外見のせいで、無駄に厳かな威厳が漂う。
 僕は紅茶を一気に飲み干し、目を閉じた。


「アリス様、ロベルト様。どうぞお入りください」
 応接室に通されたのは、20分後のことだった。
 待っていたのは、黒髪のオールバックに縁なしメガネをかけた痩身の男。年齢は20代後半。その姿は、敏腕ビジネスマンのようだ。その自然に安定したオーラは、念能力者のそれである。
「お待たせいたしました。私の名はギルフォード。……あなた方と同じプレイヤーの1人です」
 ギルフォオードの挨拶に、僕とロベルトが眉を顰める。僕はじっとギルフォードを見つめるが、とくに動揺は見られない。
 喋らない僕の代わりに、ロベルトが口を開く。
「なぜ我々がプレイヤーだと?」
「失礼。私はすでに、3割ほどのプレイヤーの情報を得ています。天空闘技場にいる人物では、アリスさんとロベルトさん、……あなた方のことは、ほぼ確信しています。カストロに弟子入りするなど、プレイヤーならではの発想ですね」
 カストロへの弟子入りは、ほとんど偶然によるものだが、それは黙っておいた。
「情報収集に関しては、私はどのプレイヤーよりも上を行っている自信がありますよ。もっとも、戦闘は全くの不得手ですがね」
 自分は弱い、と宣言しながらも、彼に自虐の色は見られない。
 僕の目から見ても、ギルフォードの戦闘能力は高が知れている。念こそ使えるが、とても武闘派とは言えない。
「さすがは情報ハンターですね。では我々がここに来た理由はわかりますか?」
 初対面なので、一応、言葉遣いには注意する。もちろん、ロベルトにも言い含めてある。
「ゲームクリアのために、私の持つ情報網が欲しい。そういうことですか?」
 やはりギルフォードはそういう計画のようだ。ゲームクリアができそうなプレイヤーをバックアップし、それに便乗するつもりなのだろう。
 作戦としては、これも大いに有りだ。直接戦闘ばかりが芸ではない。
「アリス?」
「ああ」
 僕とロベルトは頷き合う。
「あなたの言った通り、我々の目的はあなたの協力を得ることです。具体的な現実帰還の方法は、グリードアイランドのクリア特典による『挫折の弓』を試してみる予定です」
『挫折の弓』とは、10回の『離脱』が使用できる、指定ポケットカードである。ロベルトが覚えていたのだ。
 ギルフォードが腕を組んで思案する。
「……今のところ、それが現実帰還の最有力候補という見解ですが。正直、私は別の手段も用意されているのではないか、と考えています」
 その言葉には、僕とロベルトも強い興味を惹かれる。
「そう考える根拠はあるのですか?」
「いえ。強いて言うのなら、プレイヤーの存在そのものです。当然ながら、この『ハンター世界』には本来、『私』も『ギルフォード』も存在しません。『私』は現実世界の人間ですし、『ギルフォード』は設定された架空の人物ですから」
 僕はギルフォードの言葉に耳を傾ける。これは重要な考察だ。
「この事態が異世界転移であれば『現実世界の私』が、異世界憑依であれば『ハンター世界の誰か』が、私になるはず。『ギルフォード』が存在する余地など、どこにもありません」
 たしかに、異世界に転移する場合は本人が、憑依する場合には、この世界の誰かに。設定されたキャラクターが出てくるのは、おかしいといえばおかしい。
 僕は頭の中で、ギルフォードの意見をまとめる。
「……つまり、『ハンター世界』に来ているのは『体験ハンターの設定』……そういうことですか?」
 僕の精神に『アリス』の肉体が付加されていた、と思っていたが、それは反対なのかもしれない。『アリス』という設定に、僕の精神が宿っている。オマケは僕の方だ。
 ギルフォードの考察は、さらに続く。
「はい。プレイヤーが、『設定されたキャラクター』でこの世界に来てしまった、ということは、もう間違いありません。……ですから『設定されたクリア条件』も、この世界に来ているのでは、と私は考えています」
 ここでロベルトが口を挟む。
「なるほど。納得できない推論ではありません。ですが、それでどうして『挫折の弓』がクリア条件ではない、という結論になるのです?」
「難易度が低すぎるのです。『離脱』での帰還は多くのプレイヤーにとって、最初に頭に浮かぶクリア条件ですし、攻略自体も、プレイヤーがやらなくても問題はありません。実際に、私は多くの人脈を築きつつありますし、あなた方にもカストロという、強力な味方がいます。その上、プレイヤーには『奇運アレキサンドライト』や『一坪の海岸線』の入手知識もある。むしろ困難なのは、グリードアイランドの入手そのものでしょう」
 グリードアイランドの入手には、バッテラという強力なライバルがいる。レイザーの打倒も、簡単なものではない。だが多くのプレイヤーにとって、クリアまでの道筋が見えすぎているのも事実。それはその通りなのだが。
 僕は判断に困る。『挫折の弓』の入手も、それほど簡単な条件ではないように思えるのだ。
「あなたの言うことには頷けますが……」
「たしかに、プレイヤーの介入の所為で、グリードアイランドの攻略は、原作よりも競争相手が増えると思いますし、『挫折の弓』による現実帰還には、試す価値があります。そこで……」
 ギルフォードは僕たちを驚かせる発言をする。
「あなた方には、グリードアイランドを入手してもらいたい。それができれば、私はあなた方と手を組ませていただきます」
「そういった部分を期待して、あなたと手を組みたいのですが……」
「わかっています。……実のところ私は、すでにグリードアイランドを手に入れていたのです。ただ不運が重なり、とあるプレイヤーに強奪されてしまったのですよ。それを取り戻していただきたい」
 ギルフォードはある筋の知人からグリードアイランドを譲ってもらったらしいのだが、それの移送中、不運にもプレイヤーに強奪されたらしい。
 彼らは現在、ヴェルザスから飛行船で1日の場所にある廃墟の街、リキアルを拠点としている。もちろんギルフォードも黙ってはおらず、2度ほどハンターを差し向けたそうだが、返り討ちにされた、とのことだ。
「返り討ちにされたのですか?」
「ええ、残念ながら。私の人脈は、財界人に多く、強力なハンターの知り合いは、まだ少ないのです。必然、現在の私に戦闘能力はありません」
 それを聞いたロベルトが笑う。
「そのプレイヤーの情報は? 2度もハンターを送り込んだのなら、情報の1つもあるのだろう?」
 口の利き方を注意しようと思ったが、肝心のギルフォードがまるで気にしない。
「これです」
 ギルフォードが2枚の顔写真と、リキアルの地図を取り出した。生き残ったハンターが持ち帰った情報だ、と前置きする。
「名前まではわかりませんし、他に仲間がいる可能性もありますが、この2人は確実にプレイヤーです」
「生き残りがいるのなら、敵の能力を体験した者もいるのではないかね?」
「はい。生き残った者の話では、攻撃的で凶暴な念獣に襲われたと。その数、実に10匹は下らないようです」
「ふむ。どうするね、アリス?」
 ロベルトの問いは、質問ではなく、確認だ。僕の意思も固まっている。
「やろう。場所も敵の正体の一部もわかっているんだ。僕の能力なら、勝算はある。難しそうなら、さっさと逃げればいい」
「ようやく私の能力が披露できるな。楽しみだ」
 天空闘技場では、僕もロベルトも念能力を使っていない。衆人環視の中で使う能力ではないのだ。特に僕の能力は。
「頼もしいですね。応援を呼びますか? 2日あれば、2〜3人ほど手配できますよ?」
 僕とロベルトは拒否した。正面から戦闘を行うわけではないし、敵に逃げられない、とも限らない。
「では飛行船を用意します。すぐに出ますか?」
「もちろんだ」
 僕の“愛玩爆弾(ハムスターボム)”向けの仕事だ。遠慮なく爆殺させてもらう。
 幸運なことに、僕たちを心配したギルフォードが武器を渡してくれた。逃亡用の発炎筒と、ベンズナイフだ。ナンバーは13。奇形の大型ナイフである。
 ベンズナイフはシルバにも傷をつけられるナイフだ。僕の攻撃力不足も、幾分かは解消されるだろう。


 飛行船でリキアルに到着し、僕とロベルトは街の廃屋の1つを拠点とする。
 朽ちかけたテーブルに地図を広げ、10匹のハムスターが入った金網ケージを置く。6時間前に具現化した“愛玩爆弾(ハムスターボム)”だ。
「まずは敵を探さないとな」
 僕は2人のプレイヤーの顔写真を確認し、金網ケージから6匹のハムスターを取り出した。別の敵を警戒し、4匹は残しておく。
 金髪の青年と黒髪のヘテロクロミア。見た事のあるキャラクターだ。ギルフォードでなくとも、プレイヤーだとわかる。
「上手くいくといいが……」
 とりあえず標的はこの2人だ。それぞれ3匹ずつ、爆弾ハムスターのターゲットにセットした。

“ネズミの整形外科医(カスタムボマー)”

 廃墟を徘徊していても不自然ではないよう、6匹の爆弾ハムスターの容姿をドブネズミに改造する。
「行け」
 自動操作型なので、厳密には僕の命令に従ったわけではないが、6匹の爆弾ネズミが勢いよく廃墟を飛び出していった。
「お前たちもだ」
 さらに2匹が廃墟から走り去る。こちらは僕の肩に乗っていた2匹のハムスター。それも“ネズミの整形外科医(カスタムボマー)”でドブネズミに変化させ、爆弾能力ではなく操作能力を与えた。情報収集専門の探索ネズミである。
 全部で12匹。ゲンスルーの60発に比べれば心許ないが、これが僕の限界だ。勝負はここから6時間弱。それを過ぎれば、“愛玩爆弾(ハムスターボム)”は自動的に消滅するが、制限時間に関しては、特に問題ないだろう。
 相棒のロベルトに一声かける。
「護衛は頼むぞ、ロベルト」
「ああ。任せたまえ」
 僕は椅子に座り、目を閉じる。探索ネズミを操作し、爆弾ネズミの“円”もチェックしなくてはならない。今の僕のレベルからすると、結構な重労働だ。
 重要なのは探索ネズミだ。爆弾ネズミの“円”は時々チェックすればいい。
 僕の視界が、探索ネズミのそれに変わる。


「見つけた。ポイントE−8だ」
 僕の言葉に従い、ロベルトが地図にチェックを入れる。そこが敵のアジトだ。
 直後、廃墟の街リキアルの片隅が、人知れず爆音に震えた。
 ここまでは爆音も聞こえない。“愛玩爆弾(ハムスターボム)”には、街全土に轟音を轟かせるほどの爆発力はない。精々、僕と同等以下の相手に、致命傷を与えられる程度だ。それも直撃に限る。
「1人仕留めた。金髪の男だ。黒髪ヘテロクロミアは逃げたが、こいつも負傷させた。……E−9方面に移動しているな、追跡する。……仲間に電話してるぞ」
 逃がさないよう爆弾ネズミを遠隔爆破した。黒髪ヘテロクロミアは爆風で地べたを這い蹲る。致命傷ではないが、次の爆弾ネズミを回避することはできない。遠隔爆破ではなく、より確実な接触爆破で、負傷した黒髪ヘテロクロミアに止めを刺す。
「黒髪ヘテロクロミアも始末した」
 結果に不満はないが、やはり1発で仕留められないと“愛玩爆弾(ハムスターボム)”は厳しい。最初の攻撃で、黒髪ヘテロクロミアも負傷してくれたので、今回は問題なかったが、無傷で避けられていたら、ネズミの足では追いつけなかったかもしれない。
 僕はこっそりと舌打ちした。
「まぁ、今はいい」
 余った爆弾ネズミ2匹が踵を返す。標的を失った“愛玩爆弾(ハムスターボム)”は、自動的に帰還するよう設定されているのだ。
「良いペースだね、アリス。所詮は連中も狩人。狩られる方に回ると脆い。飲むかね?」
 ロベルトが僕に、ペットボトルを差し出す。オレンジジュースだ。
「悪いな。だが油断は禁物だ。実際にやつらは、ギルフォードの追手を撃退している」
 僕はジュースを飲みながら、探索ネズミを待機させる。仲間が様子を見に来るはずだ。
 数分後、連中の仲間の代わりに、グロテスクな念獣の集団が姿を現した。その容貌には、まるで統一感がない。
「例の念獣だ。第2ラウンド開始のようだぞ、ロベルト」
 ちょうどその時、2匹の爆弾ネズミが帰還した。ドブネズミを愛でる趣味はないので、すぐにハムスターの姿に戻す。これで残弾は6発だ。


「姿を見せないな。念獣だけだ。しかも連中、まるで連携していない」
 探索ネズミを介して、僕の脳裏に送られてくる映像は、念獣たちが無軌道に廃墟を破壊しているものだ。とても僕たちを探しているようには見えない。
「我々の脅威になりそうかね?」
「微妙だ。念獣のオーラから判断する限りでは、1体で僕たちと戦えるだろう。見えているのは、6匹ほどだな」
 ギルフォードの情報では、10匹はいるはずだが。
「それは微妙ではなく、危機的状況だよ、アリス」
「戦わなければ、強かろうが、弱かろうが関係ない。念獣に僕たちを発見する能力はなさそうだからな。E−9エリアを中心に本体を捜索し、“愛玩爆弾(ハムスターボム)”で仕留める」
 念獣たちには探索能力どころか、僕たちを探す意思すら感じられない。本体がプレイヤーだとすれば、僕たちとそれほど実力差があるわけがない。
 おそらく能力者は放出系。念獣は自動操作型で、戦闘力を増す特異能力を備えている。そうでなければ、あれだけの数とパワーは維持できない。
 ロベルトは僕の遠隔攻撃だけで勝負をつけるのが気に食わないようだ。
「つまらん。それでは私の出番が……」
 ロベルトが唐突に念能力を発現させた。

“天国への階段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン)”

 ロベルトの念能力。人馬を模した念人形が、その姿を現す。
「知覚加速」
 ロベルトが油断なく辺りを見回す。
「どうした、ロベルト?」
 僕も戦闘態勢に切り替え、ベンズナイフを抜く。僕の察知していない何かを、ロベルトは間違いなく知覚している。
 瞬間、ロベルトの姿が消えた。知覚加速が可能にする高速移動だ。
「ウショオオアアアア!」
壊れた窓から一瞬で屋外に移動し、“天国への階段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン)”が白蛇のような奇声を上げ、廃屋の外壁を殴り壊した。
 瓦礫と共に、転がり込んできた男は2人。1人はロベルト。もう1人は白い男だ。白髪に白い肌。痩身で幽霊のような、存在感の希薄な男。
「こいつも敵か?」
 僕とロベルトは、白い男を囲むように立つ。
「この場所は敵に知られた可能性がある。君は次の拠点に移動したまえ。この男は私が始末しよう」
 ロベルトの言葉に従い、僕は地図と金網ケージを持って、廃屋を脱出した。僕の“愛玩爆弾(ハムスターボム)”は、屋内で使うには危険な能力だ。下手をすれば足手まといになる。
「死ぬなよ」
 僕がロベルトに贈れる声援は、それだけだった。しかし声援以外のものも、1つだけ残していった。知覚能力を加速させたロベルトなら、僕の真意に気づくだろう。


 アリスの脱出を見送ったロベルトは、白い男に注意を向ける。侵入者が大人しくアリスを見送ったのは、間違いなく眼前の神父を警戒したからだ。
「一騎打ちなら、勝てると思ったか?」
 白い男の声は、生気に乏しい物静かなものだった。
「姫君を守るのは騎士の務めだが、生憎と私は神父でね。神父の務めと言えば、やはり異教徒狩りだろう」
「それは異端審問官だ」
「かの有名な『天使の塵』を知らないのかね? 彼も立派な神父ではないか」
 ロベルトが言っているのは、某吸血鬼漫画の最狂神父のことだ。
「どうやら、貴様もプレイヤーのようだな。悪いが消えてもらう」
 抹殺宣言と同時に、白い男の姿が消える。

“不可視迷彩(ステルスコート)”
 オーラをマジックミラーの性質に変化させ、透明化する能力。気配まで自動的に消える。

「大人しくしていれば、楽に死なせてやる」
 白い男の声は、狭い屋内にこだまし、声で位置を判別するのは難しい。しかしロベルトは不適な笑みを浮かべる。
「知覚加速」
 白い男の姿と気配は察知できないが、ここは廃墟である。木屑や小石が屋内にも散乱しているのだ。
 ロベルトの耳が、パキリという、小さな音を捉えた。知覚加速による超人的な聴覚が可能にする芸当である。
「“天国への階段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン)”」
 再びロベルトの姿が掻き消え、足音の聞こえた位置に、“天国への階段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン)”の全力ラッシュを叩き込む。
 目測にも関わらず、ロベルトはその手に確かな手応えを掴んだ。
「な、なにぃいいい!」
 自身の隠行術に絶対の信頼を置いていたのだろう。“天国への階段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン)”のラッシュを受けた白い男は絶叫した。
「頭脳がマヌケか? その透明化能力、先程も見破られたばかりだろう? 何か隠し玉でもあるのかと、無用な警戒をしてしまったではないか」
 ロベルトはゆっくりと白い男に近づく。神父の厳格な雰囲気と相まって、その威容は強者のそれだ。
 もっとも、それはロベルトの手管の1つだ。知覚加速による高速移動は肉体的な反動が大きいため、連続使用は控えなくてはならない。この休憩時間を、強者の余裕と思わせる演技が必要なのだ。
「一応、訊いておこうか? 君の仲間は何人いる? 先に見つけた2人は、さっきの彼女が始末したのだがね。街で暴れている念獣使いはどんなやつだ?」
「うぅ……。この、クサレ神父が……。ぶっ殺してやる……」
 幽鬼の如き印象だった白い男の顔は、無残に腫れ上がり、血と埃で化粧を施された鬼の形相に堕ちている。
「神父の質問を無碍にするとは、神罰が下るぞ?」
「ゴチャゴチャうるせぇぞ! 俺を舐めるんじゃねぇ!」
 白い男は懐から刀を抜いた。ただし、柄だけで刀身がない。圧倒的優位に立つロベルトも“凝”を使い、この不完全な武器には警戒感を顕わにする。
 だがその警戒は、功を奏さなかった。
「ぬっ! ぐぅ……」
 突然、ロベルトの腹部から血が噴出した。“天国への階段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン)”も、同じ箇所が損傷する。

“迷彩刀剣(インビジブル)”
オーラを“凝”で見破ることのできない、刃状に変化させる能力。

「……なるほど。見えざる剣というのはよくあるが、上手く再現している。“凝”で見破ることができない性質とは……。しかし浅かったぞ」
 ロベルトは膝をついたが、すぐに立ち上がる。強がるほど浅い傷ではないが、致命傷からは程遠い。
 ロベルトの不可避の連打と、白い男の不可視の一撃。次で決まる。
「そっちの念人形とダメージを共有しているようだな」
 白い男も傷ついた身体を引きずって立ち上がる。その手には、しっかりと刀の柄が握られている。
「くたばれ、クソ神父!」
 白い男が必殺の“迷彩刀剣(インビジブル)”を放つ。
「結局はアリスの計算通りか……」
 ロベルトは“天国への階段(ステアウェイ・トゥ・ヘブン)”の知覚加速を発動させ、廃屋から撤退した。
「に、逃げ……」
 ロベルトの逃亡を咎めようとした白い男の非難の声は、爆音とともに消し飛んだ。

「死体の確認が面倒だよ、アリス」
 ロベルトは崩れ落ちる廃屋を眺めながら、腹部の裂傷に応急処置を施した。

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